石灰沈着性腱板炎は、肩の腱板という組織にリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)という石灰成分が沈着し、急激な炎症を引き起こす病気です。ある日突然、肩が動かせないほどの激しい痛みに襲われるのが特徴で、夜も眠れないほどの痛みを訴えて受診される方も少なくありません。
多くの場合は適切な治療によって改善しますが、痛みのピークとなる時期(病期)を正しく見極め、それに応じた治療を選ぶことが早期回復の鍵となります。本記事では、原因、症状、病期ごとの特徴、超音波・レントゲン画像の見方、そして石灰穿刺吸引(バルボタージュ)や体外衝撃波療法を含む治療法まで解説します。
石灰沈着性腱板炎とは
肩関節を支える筋肉の腱が集まった部分を「腱板」と呼びます。腕を上げる、回すといった動作を支える重要な組織です。何らかの理由でこの腱板の中にカルシウム成分(石灰)が沈着し、これが炎症を引き起こすことで激しい痛みが生じます。
なぜ肩に石灰ができやすいのかは完全には解明されていませんが、腱板は血流に乏しく変性が起こりやすい部位であること、また局所的な低酸素状態が石灰形成に関与していると考えられています。40〜60代の女性に多くみられる傾向があり、利き手側に発症しやすいとの報告もあります。
石灰沈着性腱板炎の症状
突然肩が激しく痛くなる
前触れなく、ある日突然、肩に強い痛みが出現します。腕を少し動かすだけでも激痛が走り、日常生活に支障をきたすことがあります。
夜間痛が強い
横になると痛みが強くなり、眠れないほどの痛みを訴える方が多いのも特徴です。
腕が上がらない
痛みのために腕を上げる動作が困難になり、着替えや洗髪といった日常動作にも支障が出ます。
五十肩との違い
石灰沈着性腱板炎は、しばしば五十肩(肩関節周囲炎)と混同されますが、発症の仕方や画像所見に明確な違いがあります。
| 比較項目 | 石灰沈着性腱板炎 | 五十肩 |
|---|---|---|
| 発症 | 突然 | 徐々に |
| 痛みの性質 | 激痛 | 鈍痛 |
| レントゲン | 石灰が写る | 写らない |
石灰沈着性腱板炎の病期を詳しく解説
石灰沈着性腱板炎は、石灰ができてから消えるまでに一定の経過をたどることが知られています。この病期を理解することが、症状の見通しと治療選択の両方において非常に重要です。
形成期
石灰が徐々に形成されていく時期です。腱板の変性部分にカルシウムの結晶が沈着し始めますが、この段階では痛みはほとんど、あるいはまったくないことが多く、健康診断や別の目的で撮影したレントゲンで偶然発見されることも珍しくありません。石灰はチョークのような質感であることが多く、輪郭がやや不明瞭なことが特徴です。

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休止期
石灰が安定して腱板内にとどまっている時期です。石灰の輪郭がはっきりし、レントゲン上でも境界明瞭な白い影として確認できます。この時期も比較的症状は軽く、違和感や軽度の運動時痛にとどまることが多いです。数ヶ月から数年にわたりこの状態が続くこともあります。
吸収期
体が石灰を異物として認識し、白血球などの働きによって分解・吸収しようとする時期です。石灰沈着性腱板炎で最も痛みが強くなるのは、この吸収期です。石灰が分解される過程で腱板内の圧力が急激に高まり、強い炎症反応が引き起こされるため、じっとしていても耐えがたいほどの激痛を生じることがあります。超音波では石灰の輪郭が不明瞭になり、内部が軟らかく崩れたような像(泥状・トロトロとした状態)として観察されるのが特徴で、この所見が吸収期を判断する重要な手がかりとなります。
このように、同じ「石灰がある」状態でも、病期によって痛みの強さも治療方針もまったく異なります。だからこそ、超音波検査で現在どの病期にあるかを正確に見極めることが、適切な治療選択の第一歩となります。
超音波画像の見方
超音波(エコー)検査は、石灰沈着性腱板炎の病期を評価するうえで最も有用な検査です。レントゲンでは石灰の有無や大まかな形しか分かりませんが、超音波では石灰の質感や周囲の炎症の程度までリアルタイムに観察できます。
形成期・休止期の超音波所見 石灰は「高エコー(白く明るく映る像)」として描出され、輪郭がはっきりしている場合は静止期、やや不明瞭な場合は形成期に近いと判断されます。石灰の後方には「音響陰影(アコースティックシャドウ)」と呼ばれる黒い影ができるのが特徴で、これは石灰が硬く密度が高いことを示しています。
吸収期の超音波所見 吸収期に入ると、石灰は硬さを失い、内部エコーが不均一で境界が不明瞭な「泥状」の像に変化します。音響陰影も弱くなるか消失し、周囲には炎症を反映した血流信号(ドップラーシグナル)が増加して観察されることがあります。この所見が見られる場合、強い痛みを訴える部位と一致することが多く、臨床所見と画像所見を合わせて評価することが重要です。

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石灰沈着性腱板炎は自然に治る?
結論から言うと、石灰化病変は自然に、吸収期を経て体内に吸収され、最終的には消失することがほとんどです。ただし、吸収期には強い痛みを伴うことがあるため、この時期につよい痛みがある際には適切な治療によって痛みをコントロールすることが大切です。痛みを我慢しすぎず、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
治療方法
安静
痛みが強い急性期には、まず肩を安静に保つことが基本となります。ただし、安静期間が長いと関節が拘縮する(固まってしまう)ため、できるだけ短期間に症状を抑えることが大切です。
消炎鎮痛薬
炎症と痛みを抑えるために、内服薬や外用薬を使用します。
リハビリテーション
痛みが落ち着いてきた段階で、肩関節の可動域を維持・改善するための運動療法を行います。
超音波ガイド下注射
超音波で位置を確認しながら、肩峰下滑液包などに炎症を抑える薬剤を注射する方法です。的確に患部へ薬剤を届けられるため、高い効果が期待できます。
石灰穿刺吸引(バルボタージュ)の適応
バルボタージュとは、超音波で石灰の位置を確認しながら注射針を刺し、石灰化病変を注入・吸引することで石灰を洗い流すように除去する治療法です。以下のような場合に良い適応となります。
- 吸収期にあり、石灰が軟らかく崩れた状態になっている
- 強い痛みが持続し、日常生活に大きな支障が出ている
- 消炎鎮痛薬だけでは痛みのコントロールが難しい
- 石灰の輪郭が超音波上ではっきりせず、吸引しやすい性状である
逆に、静止期の硬く固まった石灰は、針が入りにくく、吸い出すことが難しい場合があります。そのため、超音波所見によって石灰の性状を見極めたうえで適応を判断することが重要です。処置直後から痛みが大きく軽減することが多く、即効性の高い治療法のひとつです。

吸引した石灰像
体外衝撃波療法との比較
体外衝撃波療法(ESWT)は、体外から衝撃波を石灰に照射し、石灰を細かく破砕して吸収を促す治療法です。バルボタージュとしばしば比較されますが、それぞれ特徴が異なります。とくに慢性的な痛みがある場合、石灰化病変が硬くて破砕できない場合に有効です。
| 比較項目 | バルボタージュ(穿刺吸引) | 体外衝撃波療法(ESWT) |
|---|---|---|
| 方法 | 針を刺して石灰を直接吸引 | 体外から衝撃波を照射 |
| 適した石灰の性状 | 軟らかい(吸収期) | 硬く緻密(静止期) |
| 麻酔・侵襲 | 局所麻酔・やや侵襲あり | 非侵襲的 |
| 効果発現 | 比較的速い | 数回の照射を要することが多い |
| 施行回数 | 1回で完結することが多い | 複数回必要な場合がある |
このように、石灰の性状(病期)によって適した治療法が異なるため、超音波検査でしっかりと評価したうえで、どちらの治療が適しているかを判断することが大切です。
手術
保存治療で改善が乏しい場合には、手術による石灰除去が検討されることもありますが、頻度は多くありません。
病期によって治療は変わる
| 病期 | 石灰の性状 | 痛みの程度 | おすすめの治療 |
|---|---|---|---|
| 形成期 | やや不明瞭 | 少ない | 経過観察 |
| 休止期 | 硬く境界明瞭 | 軽い | 運動療法・ESWT |
| 吸収期 | 軟らかく泥状 | 激痛 | 注射・バルボタージュ |
よくある質問(FAQ)
Q. 石灰はなくなりますか? 多くの場合、吸収期を経て自然に吸収され、最終的には消失するといわれています。
Q. 温める?冷やす? 急性期で強い炎症がある場合は冷やすことで痛みが和らぐことがあります。慢性期には温めて血流を促すことが有効な場合もあります。
Q. 運動してよいですか? 痛みの強い急性期は安静が優先されます。
Q. 石灰を取れば治りますか? 石灰を除去することで痛みは大きく改善しますが、炎症そのものへの治療も並行して行う必要があります。
Q. バルボタージュは痛いですか? 局所麻酔を行ったうえで処置しますが、強い炎症を起こしている部位に刺激が加わるので、処置開始の瞬間に痛みがあります。局部麻酔をするので次第に痛みは軽減されます。処置後は一時的に痛みが増すこともあります。
Q. 再発しますか? まれながら再発する可能性はあります。
Q. 石灰があっても痛くない人はいますか? はい、偶然の検査で石灰が見つかっても、まったく症状のない方もいらっしゃいます。
まとめ
- 痛みが最も強くなるのは石灰が吸収される「吸収期」です。適切な治療介入が必要です。
- レントゲン、超音波検査などの画像検査によって病期(形成期・静止期・吸収期)を把握することができます
- 吸収期で石灰が軟らかい場合はバルボタージュ、静止期の硬い石灰にはESWTが適します。病期に応じた治療選択が重要です
ペインクリニック芦屋ピッコロ診療所では、芦屋市・西宮市・神戸市東灘区を中心に、肩関節疾患の診療を行っています。石灰沈着性腱板炎では、急性期に非常に強い痛みを伴うことがあります。当院では、レントゲンや超音波(エコー)検査で診断を行い、強い痛みに対しては超音波ガイド下ブロック注射を行うことで、早期の症状改善を目指しています。肩の痛みでお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本整形外科学会「石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/calcific_tendinitis.html
- Sansone V, et al. Calcific tendinopathy of the shoulder: clinical perspectives into the mechanisms, pathogenesis, and treatment. Orthop Res Rev. 2018;10:63-72.
- Louwerens JKG, et al. The prevalence of calcific deposits in asymptomatic shoulders and association with pain: a systematic review. J Shoulder Elbow Surg. 2015;24(10):1582-1587.

