「最近、首が痛くて、肩甲骨のあたりや腕まで痛む。」「痛み止めや湿布をつかっているのに、なかなか良くならない。」、そんな不安を抱えながら、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症の痛みしびれにお困りの方もいらっしゃると思います。このコラムでは、首から腕にかけての痛み・しびれの原因として多い「頚椎椎間板ヘルニア」「頚椎症」に対するブロック注射による治療について解説します。
頚椎椎間板ヘルニアとは?
首の骨(頚椎)は7つの椎骨が積み重なった構造で、それぞれの間には「椎間板」という軟骨でできているクッションがあります。椎間板の中心部(髄核)はゼリー状の柔軟な組織で、それを線維輪という丈夫な外壁が包んでいます。加齢・長時間のデスクワーク・スマートフォンの長時間使用など、様々な要因が重なると、外壁のリングにひびが入り、内部のゼリー状組織が後方へ飛び出してしまいます。これが「ヘルニア(脱出)」です。

頚椎症性神経根症とは?
首の骨(頚椎)は、加齢とともに椎間板の水分が失われ、骨と骨の間隔が狭まったり、椎体の縁に骨のトゲ(骨棘〈こつきょく〉)が形成されたりする「頚椎症」という変化が起きます。さらに、神経根が通る穴(椎間孔)が骨棘や椎間板の突出によって狭くなると、神経根が圧迫・刺激を受け、首〜肩甲骨・腕・手指にかけての痛みやしびれが生じます。これが「頚椎症性神経根症」です。
頚椎症性神経根症は、中高年に多くみられる頚椎疾患の一つで、特に50〜60歳代で発症しやすいとされています。

なぜ首だけでなく、腕まで痛むのか?
首の背骨には「脊柱管」というトンネルがあり、脳から続く脊髄が通っています。そこから左右に「神経根」という細い枝が分かれ、腕・肩・手の感覚や力をコントロールしています。
ヘルニアや骨棘がこの神経根に接触すると、二つのことが同時に起きます。一つは物理的な圧迫、もう一つは神経周囲の炎症です。近年の研究では、後者の「炎症」こそが痛みの主役であると考えられています。炎症を受けた神経は過敏になり、まるで電線に傷がついたように、信号が誤って飛び火します。その結果、肩甲骨の内側・二の腕・前腕・指先まで、ジリジリ・ビリビリとした痛みやしびれが走るのです。
「なぜ首が悪いのに、腕や指まで痛むのか」とよく聞かれます。原因は首にありますが、”神経が走るルートすべてに症状が現れる”、これが神経根の痛みの特徴です。
自然に治ることもある?
多くの患者さんが気になる「このまま様子をみても治る?」という疑問があると思います。椎間板ヘルニアの自然経過で、ヘルニアが縮小・吸収され、症状が軽快する例は確かに存在します。Sharmaらの文献レビュー(2021年)によると、MRIで確認された頚椎ヘルニア自然退縮症例を分析した結果、MRI上での退縮が確認されるまでの平均期間は約9ヶ月であり、特に脱出度の高いタイプ(脱出・遊離型)ほど退縮しやすい傾向があることが示されています。
Sharma AK, Gandhoke CS, Syal SK. Spontaneous regression of herniated cervical disc: A case report and literature review. Surgical Neurology International. 2021;12:141
飛び出した椎間板組織は、体の免疫細胞によって少しずつ吸収されることがあります。ただし「症状が和らいだ=完治」とは限りません。見逃してはいけない重大な病気(感染、腫瘍がないかの確認)や再発・慢性化のリスクも存在するため、強い頚部の痛み、腕の痛みがある場合は医療機関で適切な診療を受けることをお勧めします。
慢性化すると何が起きるか?
炎症が長く続いた場合、神経が長期間にわたって刺激を受け続けると、痛みを感じる仕組み自体が過敏になる「中枢性感作」という状態に移行しやすくなります。こうなると、もとの刺激が小さくなっても痛みが消えにくくなり、睡眠・集中力・家事・仕事といった日常全般に影響が及びます。そのため、強い痛みがある場合には早めに対処する必要があります。
ブロック注射という選択肢
頚椎椎間板ヘルニアと診断された場合、炎症を起こしている神経に直接アプローチできる「ブロック注射」が有効なことがあります。保存治療(内服・理学療法)と手術の中間に位置する重要な選択肢です。
ブロック注射は「痛みをとるためだけのもの」と思われがちですが、神経の炎症が軽減することで自然治癒力が働きやすくなり、結果として回復を促す効果も期待されています。短期〜中期的な疼痛改善に有効であることは、複数の臨床研究で示されています。
ブロック注射の仕組み
ブロック注射とは、炎症を起こした神経根や脊髄周囲に、局所麻酔薬とステロイド(消炎薬)を少量注射する治療です。神経周囲の炎症を直接抑えることで、痛みのサイクルを断ち切り、自然回復の土台を作ります。
神経根ブロック
炎症を起こしている、圧迫を受けている神経根の周囲に直接注射します。特定の神経根を狙うため、どの神経がトラブルを起こしているのかを調べる診断的な役割も兼ねます。

超音波ガイド下ブロックの安全性
従来、頚椎のブロック注射はX線透視装置を使いながら針の位置を確認する方法(透視下)が主流でした。近年は、超音波(エコー)でリアルタイムに針の位置・血管・神経を映しながら注射する「超音波ガイド下ブロック」が普及しています。

- 放射線被曝がない
- 血管をリアルタイムで避けながら注射できるため、安全性が向上
頚椎硬膜外ブロック
硬膜外ブロックは、脊髄や神経を包む膜(硬膜)の外側にある「硬膜外腔」に薬剤を届け、神経の炎症をより中枢側から抑える治療です。

どんな方がブロック治療の対象になるか?
すべての方にすぐブロック注射が必要というわけではありません。以下に当てはまる方が主な対象です。
- 内服薬・湿布・リハビリテーションなどの治療を行っているが、十分改善しない
- 神経根性の痛み(腕への放散痛・しびれ)が強く、日常生活に支障がある
- 痛みのために睡眠が妨げられている
米国神経学会のレビューでは、ブロック注射は神経根症による痛みを短期的に改善し、活動性や生活機能の改善を助ける治療として位置づけられています。
頚椎ヘルニアや頚椎症性神経根症では、神経の炎症が痛みの大きな原因になることがあります。
まとめ
「腕の痛みが強い」
「なかなか改善しない」
という場合には、神経ブロック治療が一つの選択肢になるかもしれません。
Smith J, Cohen SP, Bicket MC, et al. Epidural Steroids for Cervical and Lumbar Radicular Pain and Spinal Stenosis: Systematic Review Summary: Report of the AAN Guidelines Subcommittee. Neurology. 2025;104(5):e213361.
ペインクリニック芦屋ピッコロ診療所は芦屋市、西宮市、神戸市東灘区地域で頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症の診療、ブロック注射を行っています。

