近年、片頭痛の予防治療は大きく進歩しました。その中心にあるのが CGRP関連抗体薬 です。
エレヌマブ(アイモビーク®)、ガルカネズマブ(エムガルティ®)、フレマネズマブ(アジョビ®)といった薬は、片頭痛発作に重要な役割を持つ「CGRP」という神経ペプチドの働きを抑えることで、頭痛の頻度を減らす治療です。
従来の予防薬より効果が高く、副作用も比較的少ないことから、世界中で多くの患者さんに使用されています。
しかし、患者さんからよく聞かれる質問があります。
「この薬はいつまで続ける必要がありますか?」
「やめると頭痛はどうなりますか?」
今回はこの疑問について、2つの研究を紹介しながら解説します。
8か月以上CGRP抗体での治療後に中止すると頭痛はどう変化するか
CGRP抗体(エレヌマブ・ガルカネズマブ・フレマネズマブ)を8か月以上使っていた片頭痛の方について、抗体薬をやめた後に頭痛がどう変化するかを調べました。

■ 結果
| 月の頭痛日数 | 月の片頭痛日数 | 急性期薬使用回数 | |
| CGRP治療開始前 | 15.1±7.0 | 13.3±6.4 | 10.4±5.6 |
| CGRP治療終了時 | 9.4±7.3 | 8.2±6.6 | 5.9±5.0 |
| 終了後5〜8週 | 11.4±7.3 | 10.3±6.8 | 7.7±6.2 |
| 終了後13〜16週 | 13.4±6.7 | 12.5±6.6 | 9.3±6.3 |
- 治療終了時:月の片頭痛日数 8.2日
- 中止後5〜8週:月の片頭痛日数 10.3日(増加)
- 中止後13〜16週: 月の片頭痛日数 12.5日(さらに増加)
最終的には ”多くの方”(全員ではない)は 治療前とほぼ同じレベルまで戻ったという結果でした。
頭痛日数の変化数を見たグラフでもCGRP治療終了時には、もともとの頭痛日数より5日少なくなったのですが、時間の経過とともにエムガルティ、アジョビ、アイモビークとも治療開始前の頭痛日数に近づいています。

■ 結論
CGRP抗体をやめると、時間とともに
- 片頭痛の回数
- 痛み止めの使用量
が治療前の程度に近づく(同じではない)ことがわかりました。
この研究では、薬をやめると頭痛が徐々に増えてきて、多くの方が3〜4か月でほぼ元に戻るという結果でした。
つまりCGRP抗体は、使っている間に発作を抑える効果は非常に高いこと、片頭痛の抑制効果が永続するわけではない可能性があるということ、その一方でCGRP治療終了した後に頭痛回数が減少したままの方もいるという事実が読み取れます。
Migraine evolution after the cessation of CGRP(-receptor) antibody prophylaxis: a prospective, longitudinal cohort study. Cephalalgia. 2022 Apr;42(4-5):326-334.
1年 CGRP抗体での治療後に中止すると頭痛はどう変化するか
次に、1年間治療を行った後に中止した患者さんの経過を調べた研究が報告されています。
■研究の概要
この研究では、CGRP抗体薬を12か月間使用した片頭痛患者さんを対象に、
治療中止後の頭痛の変化を追跡しています。反復性片頭痛(1か月の頭痛日数が15日未満)と慢性片頭痛(1か月の頭痛日数が15日以上)の方について調べています。
| 反復性片頭痛 | 慢性片頭痛 | |
| CGRP治療前の頭痛日数 | 14±7 | 20±5 |
| CGRP治療開始3か月 | 6±5 | 7±6 |
| CGRP治療開始12か月 | 5±4 | 5±4 |
| CGRP治療終了後 1か月 | 8±4 | 5±3 |
| CGRP治療終了後 2か月 | 9±5 | 8±4 |
| CGRP治療終了後 3か月 | 12±6 | 11±4 |
| CGRP治療再開後1か月 | 7±5 | 5±3 |
■CGRP抗体製剤での治療中の変化
治療により、頭痛の日数は大きく改善していました。
- 治療前:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で14日、慢性片頭痛では20日
- 3か月後:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で6日、慢性片頭痛では7日に減少
- 12か月後:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で5日、慢性片頭痛では5日に減少(12か月続けると反復性片頭痛も慢性片頭痛も同じくらいの日数まで減少)
■CGRP抗体製剤での治療終了後の変化
CGRP抗体製剤での治療を中止すると、頭痛日数は徐々に増加しました。
- 治療終了後1か月:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で8日、慢性片頭痛では5日(少し増える?)
- 治療終了後2か月:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で9日、慢性片頭痛では8日
- 治療終了後3か月:一か月の頭痛日数は、反復性片頭痛で12日、慢性片頭痛では11日
と数か月かけて元の状態に近づきました。
■CGRP治療再開後
CGRP治療再開後は再度頭痛回数が減少しています。CGRP抗体製剤の再開は有効でした。

Migraine evolution after the cessation of CGRP(-receptor) antibody prophylaxis: a prospective, longitudinal cohort study.Cephalalgia. 2022 Apr;42(4-5):326-334.
重要なポイント
CGRP製剤中止後、全員がもとの状態(頭痛回数多い)に戻るわけではありません
ここで大切なのはすべての方が元の片頭痛が多い状態状態に戻るわけではないという点です。
研究では、
- ある程度良い状態を維持できる方
- 少し悪化するが軽めで済む方
- もとの状態に近づく方
など、経過には個人差があることがわかります。
なぜ頭痛は戻ってしまうのか
CGRP抗体は主に三叉神経周囲の炎症や痛みの伝達を抑える働きをしています。
つまり、発作を起こす仕組みを抑える薬であり、
片頭痛体質そのものを完全に治す薬ではありません。
そのため薬を中止すると、徐々に効果が薄れ、頭痛が再び増えると考えられています。
それでも休薬が検討される理由
ではなぜ治療をやめることがあるのでしょうか。理由はいくつかあります。
① 片頭痛は自然に変化する
片頭痛は
- ストレス
- ホルモン
- 年齢
などによって変化します。自然に軽くなる患者さんもいます。
② 医療費の問題
CGRP抗体は高価な薬です。いつまでもその費用を支払うのは負担がかかります。そのため、定期的な評価が必要になります。
③ 本当に必要か確認する
頭痛が減っている場合、治療を続ける必要があるのかを確認する目的で休薬することがあります。
まとめ
最新研究から分かってきたことを整理すると次の通りです。
・CGRP抗体製剤は非常に効果の高い片頭痛予防薬
・CGRP抗体製剤による治療を中止すると頭痛は徐々に増える
・多くの方はCGRP抗体製剤による治療終了後3〜4か月以内に頭痛回数が増える、ただし全員ではない。
・CGRP抗体製剤による治療を再開すると頭痛日数は減る
つまりCGRP抗体は
「使っている間に頭痛を抑える治療」
と考えられています。
片頭痛の経過は人によって大きく異なります。そのため治療をいつまで続けるかは個別に判断することが重要です。
ペインクリニック芦屋ピッコロ診療所では芦屋、西宮、東灘地域で片頭痛の専門的な治療(薬物療法、CGRP製剤の注射、ブロック注射、動注療法)を行っています。

