※架空のケースをもとに、群発頭痛という病気をお伝えします。

最初は「疲れのせい」だと思っていた
田中誠さん(仮名・44歳)は、中堅メーカーの営業課長だ。年度末の繁忙期が続いていた3月のある夜、深夜1時過ぎに目が覚めた。左の眼の奥、こめかみの奥に、じわりとした違和感があった。
「最初は肩こりか疲れだと思ったんです。年度末で残業続きでしたから」
しかし翌朝には消えていたため、気に留めなかった。問題は、それが翌晩も、その翌晩も繰り返されたことだった。
3日目の夜中1時20分。今度は「じわり」ではなかった。
左目の奥を、焼けた鉄の棒で突き刺されているみたいな痛みでした。今まで味わったことのない種類の痛みで、思わず声が出てしまった。
痛みは約45分続いた後、嘘のように消えた。眠れないまま朝を迎えた田中さんは、「おそらく寝不足のせいだろう」と自分に言い聞かせ、その日も会社へ向かった。
毎晩、同じ時間に「それ」がやってくる
1週間が過ぎても、痛みは止まらなかった。それどころか、ほぼ毎晩、深夜1時から2時のあいだに激痛が訪れた。左目から涙があふれ、鼻水も止まらない。痛みがひどいときは、じっとしていることができず、部屋の中をぐるぐると歩き回った。
気晴らしに、いつものウイスキーを一杯飲んで・・・と飲み始めると、気分が落ち着くどころか、すぐにいつもの強い頭痛がやってきて苦しむ羽目になった。
妻が用意した市販の頭痛薬は効かなかった。「眠るのが怖くなってきた。また来るとわかってる。でも来ないかもしれない、という気持ちもあって。毎日その時間帯になると体が緊張する。」
目の奥の痛みと涙・鼻水という症状が気になり、まず耳鼻科を受診した。副鼻腔炎など鼻や耳の病気は見当たらず、担当医からこんな一言があった。
鼻や耳には問題ありませんでした。ただ、毎晩同じ時間に起こる激しい頭痛というのは、頭痛を専門に診察する外来で相談してみると良いかもしれません
その言葉が、田中さんを次のステップへ導いた。
頭痛外来で「群発頭痛」と診断された
紹介を受けて頭痛外来を受診したのは、最初の痛みから約1週間後のことだった。問診票に症状を書きながら、田中さんは「こんなに細かく聞かれるとは思わなかった」と感じた。
「痛みはどちら側か」「何時頃に起きるか」「どのくらい続くか」「涙や鼻水はあるか」「体を動かしたくなるか」──矢継ぎ早の質問に答えているうちに、医師がこう言った。
症状の特徴から、群発頭痛の可能性が高いと思います。ただし、まず頭の中の血管や神経に異常がないか確認しましょう。
MRI検査では、脳や血管に危険な異常は見つからなかった。「命に関わる病気ではない」と告げられた瞬間、田中さんは安心して肩の力が抜けたという。
そして医師から「群発頭痛」について説明を受けた。
- 片側の目の奥や側頭部に、非常に激しい頭痛が起きる。
- 1〜2時間以内に収まるが、毎日同じ時間帯に繰り返す(「群発期」)。
- 発作中は頭痛と同側の涙・鼻水・目の充血などが起きやすく、じっとしていられなくなる。
- 群発期は数週間〜数ヶ月続き、その後は無症状の寛解期に入ることが多い。
- 片頭痛とは発生のしくみが異なり、治療方針が異なる。治療方法も異なることがある。
- 男性に多く、30〜50代での発症が比較的多いとされる。
「自分の症状にきちんと名前があったんだ、同じような症状で悩む人が他にもいたのだ、と思った。それだけで、すこし楽になった気がした」と田中さんは振り返る。
治療の選択肢を知る
診断がついた後、医師から群発頭痛に対する治療の選択肢について説明を受けた。大きく分けると、発作が起きたときに素早く痛みを抑える「頓挫療法」と、発作そのものを起きにくくする「予防療法」がある。

①トリプタン製剤など
発作が始まった際に使用する薬。内服、点鼻、皮下注射の3種類がある。皮下注射タイプは速やかに効果が現れる。自己注射による在宅使用が可能。
②高濃度酸素吸入
発作時に酸素マスクで高濃度・高流量の酸素を吸入する方法。発作を短縮する手段の一つとして用いられる。
①予防薬(ベラパミルなど)
群発期のあいだ継続して服用し、発作の頻度や強さを抑えることを目的とする内服の治療。
②後頭神経ブロックなどブロック注射
後頭部の神経に局所麻酔薬などを注射する方法。
また、近年ではCGRP関連の治療薬(カルシトニン遺伝子関連ペプチドに働きかける薬)が難治性の群発頭痛への応用も研究されており、治療の選択肢は広がりつつある(健康保険未承認)。
※治療の方針は症状の経過や個人の状態によって異なります。実際の治療内容については、担当医とよくご相談ください。
「治療する方法がある、このまま我慢しなくてはいけないわけではない、たいていは1か月内外で症状がおさまる、ということを知れただけで全然違いました。自分の頭の中で何が起きているか、どう向き合えばいいかが、ようやくわかった気がしました」と田中さんは話す。
こんな症状があれば、群発頭痛の可能性があります
- 片側だけに起こる激しい頭痛
- 目の奥をえぐられるような痛み
- 発作中に涙や鼻水が出る
- 毎日ほぼ同じ時間帯に起きる
- 痛みでじっとしていられず歩き回る
「ただの頭痛」として見過ごされることも多い群発頭痛ですが、適切な診断のもとで治療の選択肢を検討できる病気です。気になる症状がある方は、ぜひ頭痛外来などへの受診をご検討ください。

