「生理前になると頭痛がひどくなる」
「月経痛がつらくてLEPを飲んでいるけれど、本当に続けて大丈夫?」
「”片頭痛の人はピルが危険”とネットで見て不安になった」
30〜40代の女性では、このような悩みを抱えている方が少なくありません。
月経困難症や子宮内膜症の治療として、LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)は今や広く使われています。生理痛や月経量の改善して、日常生活の質を高めてくれる、大切な選択肢です。
一方で、片頭痛、とくに「前兆のある片頭痛」がある場合には、LEPの使用について注意が必要とされています。
ただし、ここで大切なのは、「片頭痛がある=LEPを飲めない」わけではないということです。
本コラムでは、論文やガイドラインをもとに、片頭痛とLEPの関係を解説します。
生理前に頭痛が悪化するのはなぜ?
女性の片頭痛は、女性ホルモン(とくにエストロゲン)の変動に強く影響されます。
排卵後から月経前にかけてエストロゲンが急激に低下するとき、脳の痛み感受性システムが刺激され、片頭痛が引き起こされると考えられています。

- 生理前だけ頭痛が強くなる
- 月経開始とともに頭痛が始まる
- 生理のたびに寝込む
- 排卵期と月経期の両方に片頭痛が起こる
こうした症状は「月経関連片頭痛」と呼ばれます。普段の片頭痛より痛みが強く、吐き気も強い、長引きやすい、市販薬が効きにくい、といった特徴があります。
LEPにはどんな種類があるの?
LEP(低用量ピル)とは2種類の女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)を配合したホルモン剤です。エストロゲン量が多い、高用量、中用量ピルも存在はしますが、副作用のため、実際に用いられる頻度は少ないようです。
- 卵胞ホルモン(エストロゲン):子宮内膜を厚くし、女性らしい体や排卵の準備を整えるホルモン
- 黄体ホルモン(プロゲスチン):妊娠に備えて子宮内膜を維持し、妊娠を助けるホルモン
が含まれています。
| 薬剤 | 一言でいうと | 特徴 |
|---|---|---|
| ルナベルⓇ | 実績豊富なスタンダードタイプ | 月経困難症治療で広く使用されるLEP |
| フリウェルⓇ | ルナベルのジェネリック | 成分はルナベルと同じ |
| ヤーズⓇ | PMSやむくみにも配慮したタイプ | 月経前症状にも使用される |
| ドロエチⓇ | ヤーズのジェネリック | 成分はヤーズと同じ |
最近ではエストロゲン量を減らした「超低用量タイプ」も増えており、副作用の低減や安全性向上が期待されています。
前兆のある片頭痛との関係で重要なのは、「エストロゲンを含むかどうか」です。
エストロゲンには血栓を作りやすくする作用があるため、片頭痛のタイプによっては慎重な判断が必要になります。
また最近では、エストロゲンを含まない「黄体ホルモン単剤」も注目されています。
“前兆のある片頭痛”とは?
ここで最も重要なのが、片頭痛に伴う「前兆」の有無です。 前兆とは、頭痛の前に現れる神経症状のことです。 代表的なものとして、
- 視界がキラキラする
- ギザギザした光が見える
- 視野の一部が欠ける
- 手足がしびれる
- 言葉が出にくくなる
などがあります。 多くの場合、これらの症状は5〜60分ほどで改善し、その後に頭痛が始まります。 特に有名なのが「閃輝暗点(せんきあんてん)」です。視界の中にキラキラしたギザギザがゆっくりと広がっていく症状で、片頭痛の典型的な前兆とされています。 この「前兆のある片頭痛」は、脳梗塞のリスクがやや高いことが知られています。
実際の研究ではどうなの?
片頭痛と脳梗塞リスクについては、世界中で多くの研究が行われています。
2009年にBMJ誌に掲載された大規模な解析では、「前兆のある片頭痛」の女性では脳梗塞のリスクが約2倍になることが報告されました。特に45歳未満・喫煙者・経口避妊薬を使用中の女性ではリスクがさらに高くなることが分かりました。一方で、「前兆のない片頭痛」では明らかなリスク上昇は認められませんでした。片頭痛と心筋梗塞・心血管死との関連は認められませんでした。このため現在のガイドラインでは、片頭痛の有無だけではなく、「前兆があるかどうか」が重要視されています。
さらに2017年のChampalouxらの研究では、
「前兆のある片頭痛」+「エストロゲン含有ピル」の組み合わせで、脳梗塞リスクが上昇するかを調査しています。
前兆の有無とエストロゲン含有ホルモン剤(CHC)による脳梗塞リスク
| 片頭痛のタイプ | CHC | 脳梗塞リスク |
|---|---|---|
| 前兆なし | 使用なし | 1倍(基準) |
| 前兆なし | 使用あり | 約1.8倍 |
| 前兆あり | 使用なし | 約2.7倍 |
| 前兆あり | 使用あり | 約6.1倍 |
この研究では、
- 前兆なし片頭痛+CHC:リスク約1.8倍
- 前兆あり片頭痛+CHC:リスク約6倍
という結果が示されています。
ただし重要なのは、“もともとの絶対数は多くない”という点です。
若い女性の脳梗塞はもともと非常にまれです。そのため、前兆のある片頭痛があるからといって、必要以上に心配する必要はありません。
重要なのは、前兆のある片頭痛に喫煙やホルモン避妊薬の使用が加わると、脳梗塞のリスクがさらに大きく上昇するという点です。
国内外のガイドラインではどう考えられている?
片頭痛とLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)の関係については、多くの研究結果をもとに国内外でガイドラインが作成されています。
日本と欧州のガイドラインはいずれも共通した見解を示しています。
日本の頭痛診療ガイドライン
日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経治療学会が作成した『頭痛の診療ガイドライン2021』では、前兆のある片頭痛の方に対するエストロゲン含有製剤の使用は原則禁忌と記されています。
一方、前兆のない片頭痛では一律に使用できないわけではありませんが、年齢や喫煙歴、高血圧などの危険因子を確認しながら経過をみることが推奨されています。

婦人科領域のガイドライン
日本産科婦人科学会の『OC・LEPガイドライン2020』でも、前兆のある片頭痛は重要な注意事項として扱われています。
これは、前兆のある片頭痛そのものが脳梗塞リスクと関連することに加え、エストロゲン含有製剤によって血栓症リスクが上乗せされる可能性があるためです。
そのため、処方の際には片頭痛の有無だけでなく、「前兆があるかどうか」を確認することが重要とされています。
欧州頭痛連盟(European Headache Federation)
欧州頭痛連盟と欧州避妊学会が合同で発表したコンセンサスステートメントでも、前兆のある片頭痛を持つ女性ではエストロゲン含有製剤の使用に慎重な姿勢が示されています。
特に、前兆のある片頭痛が確認された場合には、他の避妊法やホルモン治療への変更を検討することが推奨されています。前兆の有無、頻度、一般的血管リスクを総合的に評価することが重要とされています
前兆のない片頭痛なら大丈夫?
では、「前兆のない片頭痛」なら安全なのでしょうか。
前兆のない片頭痛ではLEPによる脳梗塞リスク上昇は比較的小さいと考えられています。
しかし、40歳以上の方、喫煙者、肥満、高血圧、または過去に血栓症の既往などの危険因子がある場合は使用できないことがあり、慎重な経過観察が求められます。
さらに
- 急に頭痛が増えた
- 今までと違う頭痛
- 初めて前兆が出た
- 激しい頭痛が突然出た
という場合には注意が必要です。
「前兆があるかわからない」という方へ
実際の診療では、
「これって前兆ですか?」
という相談はとても多いです。
眼精疲労や肩こりと思っていた症状が、実は片頭痛だったということもあります。
逆に、“前兆っぽい”と思っていても、実際には別の病気の場合もあります。
そのため、
- 生理との関係
- 光やにおいへの敏感さ
- 頭痛のタイミング
- 視覚症状の有無
を整理することが大切です。
片頭痛は「我慢する病気」ではありません
以前は、「女性の頭痛は仕方ない」と思われがちでした。
しかし現在では、片頭痛治療は大きく進歩しています。
CGRP関連薬など新しい治療によって、
- 片頭痛で毎月寝込んでいた
- 片頭痛が起こるので生理前が怖かった
- 鎮痛薬が手放せなかった
という方が改善するケースも増えています。
また、婦人科治療と頭痛治療を組み合わせることで、生活の質が大きく改善することもあります。
不安になりすぎず、まずは相談を
「片頭痛の人はピル禁止」ではありません。
実際には、
- 前兆の有無
- 年齢
- 喫煙
- 血圧
によって対応は異なります。
大切なのは、「自分の頭痛をきちんと知ること」です。
「生理前の頭痛がつらい」
「前兆がある気がする」
そんな時は、一度相談してみてください。
頭痛と女性ホルモンは深く関係しています。
だからこそ、“我慢する”のではなく、婦人科と頭痛診療の両方の視点から、自分に合った治療を考えていくことが大切です。
参考文献
1.Schürks M, Rist PM, Bigal ME, Buring JE, Lipton RB, Kurth T. Migraine and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2009;339:b3914.
2.Champaloux SW, Tepper NK, Monsour M, Curtis KM, Whiteman MK, Marchbanks PA, et al. Use of combined hormonal contraceptives among women with migraines and risk of ischemic stroke. Am J Obstet Gynecol. 2017;216(5):489.e1-489.e7.
3.MacClellan LR, Giles W, Cole J, Wozniak M, Stern B, Mitchell BD, et al. Probable migraine with visual aura and risk of ischemic stroke. Stroke. 2007;38(9):2438-45.

