- 片頭痛の予防には、毎日飲む「従来の予防薬:トリプタノール(=アミトリプチリン)、ミグシス、セレニカ、インデラルなど」と、月1回注射する「CGRP抗体製剤(エムガルティ=ガルカネズマブ、アジョビ、アイモビークなど)」がある
- 2026年発表の実臨床研究「TRIUMPH study」では、3か月時点の改善率がガルカネズマブ群で約48%、従来の経口予防薬全体で約36%と、ガルカネズマブ群の方が高かった
- エムガルティは、従来から使われているアミトリプチリンと比べても良好な成績が報告されており、従来の予防薬が効きにくかった方や続けられなかった方にも期待できる治療です。
- HER-MES試験(エレヌマブ)や米国頭痛学会の声明など、他の研究・見解もCGRP抗体製剤の忍容性の高さを支持している
- 長期使用でも1年後まで効果が維持されやすい一方、費用は高額になりやすく、費用対効果は片頭痛の方の状態によって変わる
- 「CGRP製剤と呼ばれる注射の方が必ず優れている」わけではなく、効果・副作用・費用・続けやすさを総合して治療を選ぶことが大切
エムガルティと従来の予防薬は何が違う?
片頭痛の予防治療には、毎日飲む「従来の予防薬」と、月1回注射する「CGRP抗体製剤」があります。それぞれ効果や続けやすさにどんな違いがあるのでしょうか。今回は、CGRP抗体製剤の一つであるエムガルティ(一般名:ガルカネズマブ)について、2026年に発表された実臨床研究「TRIUMPH study」の結果を中心に、従来薬との違いをわかりやすく解説します。
片頭痛は多くの方が経験する身近な病気ですが、頭痛の頻度や生活への影響には個人差が大きく、治療法も一つに決まっているわけではありません。従来から予防薬として使われていた薬を使っていくか、CGRP抗体製剤も検討するかは、これまでの治療歴や副作用の経験、生活スタイルなどを踏まえて、医師と相談しながら決めていくことが望ましいといえます。
従来の片頭痛予防薬とは
日本で片頭痛予防に使われる代表的な飲み薬は、ミグシス、インデラル、セレニカ、トリプタノールなどです。これらは毎日決まった時間に内服する必要があり、もともと血圧やてんかん、うつなど別の病気のために開発された薬が多いという特徴があります。眠気やふらつき、口の渇き、血圧低下などが問題になることがあり、効果には個人差があるため、副作用で内服を続けられなくなる方も少なくありません。
ガルカネズマブ(エムガルティ)とは
ガルカネズマブは、片頭痛の発生に深く関わるCGRPという神経ペプチド(神経伝達物質)の働きを抑える注射薬です。CGRPは脳の血管や神経に作用して片頭痛発作を引き起こすと考えられている物質で、この働きをブロックすることで片頭痛発作の頻度を減らす、片頭痛の程度を軽減させる、ことを目指します。月1回1本の皮下注射を行い、毎日の内服が不要になることもあります。主な副作用は注射した部位の赤みや痛みなどの注射部位反応です。従来薬と同様、すべての患者さんに効果があるわけではありません。CGRP抗体製剤だからといって「新しいから必ず優れている」というわけではなく、あくまで治療の選択肢の一つとして位置づけることが大切です。
TRIUMPH studyで分かったこと
TRIUMPH studyは、実際の診療現場でガルカネズマブを使い始めた患者さんと、従来の経口予防薬を使い始めた患者さんの治療成績を比較した、国際的な観察研究です。ランダム化比較試験ではなく、患者さんの背景(年齢や重症度など)の違いを統計学的に調整したうえで比較している点が特徴です。
2813人の片頭痛を持つ方(ガルカネズマブ群1105人、従来薬群1293人)を解析した結果、3か月時点で頭痛日数が一定以上(片頭痛の型に応じて50%または30%以上)減った方の割合は、次のとおりでした。
| 治療群 | 3か月時点頭痛が減少した方の割合 |
|---|---|
| ガルカネズマブ | 46.6% |
| 従来の経口予防薬全体 | 34.5% |
次に頭痛が経口予防薬、エムガルティ注射(ガルカネズマブ)開始後にどれくらい減少したかのグラフです。「≥50%」とは50%反応率で「エムガルティ注射治療開始後に月の頭痛回数が半分以下に減った方」の割合を示し、「≥100%」とは100%反応率で「エムガルティ注射治療開始後に頭痛がなくなった方」の割合を示します。
(A)は頭痛が起こる回数が月に15回未満の方を対象としていて、(B)は頭痛が月に15回以上おこる方を対象として調査しています。

頭痛日数の減少幅や、生活への支障の改善度も、従来からの経口予防薬(ミグシス、トリプタノール、セレニカ、インデラルなど)で軽減しているとの結果でしたが、ガルカネズマブを使用していた方のほうが、より高い結果が報告されています。日本人を対象としたサブグループの中間解析でも、同様にガルカネズマブ群の改善率が高い傾向が示されています。
エムガルティ注射のほうが、経口予防薬の内服よりよいの?
まず注意していただきたいのは、比較対象となったTRIUMPH試験の経口薬の中には、トピラマートのように日本では片頭痛予防薬として保険適応のない薬も含まれている点です。研究で実際に比較された薬剤と、日本の保険診療で使われる薬剤は必ずしも一致しないため、この結果だけをもって「エムガルティはミグシスなどの経口予防薬より優れている」と単純に結論づけることはできません。
片頭痛の発症には、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が重要な役割を果たしていることが分かっており、CGRPを標的とした注射薬・内服薬は多くの患者さんで高い予防効果が期待できます。
しかし、片頭痛はCGRPだけで起こる病気ではありません。脳の神経ネットワーク、セロトニン、自律神経、ストレス、睡眠など、さまざまな要因が複雑に関わっています。そのため片頭痛のタイプによっては、CGRP経路以外の仕組みがより大きく関与していることもあり、その場合にはCGRP製剤の効果が十分に得られないこともあります。
一方、従来から使われている予防薬には、本来の薬理作用を生かした「頭痛以外のメリット」が期待できるものがあります。
- トリプタノール®(アミトリプチリン):不安や気分の落ち込みの軽減、睡眠の質の改善、肩こりや慢性的な痛みの緩和が期待できることがあります。
- デパケン®など(バルプロ酸):脳神経の過剰な興奮を抑える作用があり、てんかんを合併する方では一石二鳥となる場合があります。
- インデラル®(プロプラノロール):血圧を下げる作用に加え、動悸や緊張時のふるえ、不安感を和らげる効果が期待できることがあります。
このように、従来の予防薬には片頭痛以外の症状や体質までカバーできるという利点があります。
したがって、「CGRP製剤は新しいから誰にとっても最良」とは言えません。片頭痛のタイプ、合併症、生活背景、副作用への懸念、患者さんが改善を望む症状など、複数の要素を総合的に考慮したうえで、一人ひとりに最も適した予防薬を選ぶことが大切です。
CGRP製剤と従来の予防薬は、対立するものではなく、それぞれに異なる長所を持つ選択肢です。病状に応じて使い分けたり、必要に応じて併用したりすることで、より良い治療を目指すことができます。
国際的にも高く評価されているCGRP製剤
CGRP製剤は、その有効性と安全性を裏付けるエビデンスが年々積み重ねられている治療薬です。
2024年、米国頭痛学会(American Headache Society:AHS)は、CGRP抗体製剤について、「従来の予防薬で効果が得られなかった場合の最後の選択肢」ではなく、片頭痛予防治療における「第一選択の一つ」として考慮できるという見解を発表しました。これは米国の専門学会による見解であり、日本の保険診療上の位置づけとは異なりますが、CGRP製剤が国際的に高く評価されているかを示すものといえます。
また、複数の臨床試験を統合して解析したメタ解析においても、CGRP抗体製剤は高い予防効果に加え、副作用による治療中止が少なく、忍容性(治療の続けやすさ)に優れていることが報告されています。主な副作用は注射部位反応(赤み・腫れ・痛みなど)や便秘であり、多くは軽度から中等度にとどまります。
一方で、費用面では従来の内服薬より高額になる傾向があります。そのため治療を選ぶ際には、有効性や副作用だけでなく、通院の頻度、費用、合併症の有無、日常生活のスタイルなども含めて総合的に検討することが大切です。
このように、CGRP製剤は現在、「高い有効性」と「優れた忍容性」を兼ね備えた新しい片頭痛予防治療として位置づけられています。ただし、片頭痛の病態や合併症は患者さんごとに異なり、すべての方にとってCGRP製剤が最適とは限りません。
当院では、お一人おひとりの病状やご希望を丁寧に伺いながら、最も適した治療法をご提案いたします。
飲み薬と注射薬、実際の違い
| 項目 | 従来の予防薬 | エムガルティ(ガルカネズマブ) |
|---|---|---|
| 投与方法 | 毎日内服 | 月1回注射(初回のみ2本) |
| 主な問題点 | 眠気、ふらつき、口渇など | 注射部位反応など |
| 続けやすさ | 毎日の服薬が負担になることも | 毎日の服薬は不要 |
| 費用 | 比較的安価 | 高額になりやすい |
| 向いている場面 | 初期の治療として選びやすい | 従来薬で効果不十分・継続困難な場合 |
「注射のほうが必ず優れている」ということではなく、効果・副作用・費用・通院や自己注射の負担などを総合して選ぶことが大切です。
どのような人がエムガルティを検討するとよいか
以下に当てはまる方は、一度頭痛外来で相談してみることをおすすめします。
- 頭痛が起こる日数が多く、生活や仕事に影響が出ている方
- これまでの予防薬を使っても、十分な効果を感じられなかった方
- 予防薬の副作用(眠気やふらつきなど)のせいで、服用を続けるのが難しかった方
- 毎日薬を飲むこと自体が負担になっている方
- 鎮痛薬やトリプタン製剤などの急性期治療薬を使う頻度が増えてきている方
エムガルティが実際にご自身に合うかどうかは、頭痛の頻度やこれまでの治療経過などを踏まえ、診察を通じて判断していくことになります。
研究の限界
TRIUMPH studyはランダム化比較試験ではなく観察研究であること、薬剤を選んだ患者さんの背景に差がある可能性があること、日本人だけを対象とした確定的な結果ではないこと、日本で使われるすべての予防薬を直接比較したわけではないこと、長期的な費用対効果は患者さんの状態によって大きく変わることには留意が必要です。従来の飲み薬とCGRP抗体製剤には、それぞれ利点と注意点があります。頭痛日数、副作用、生活への影響、費用を踏まえたうえで、ご自身に合った治療を選ぶことが重要です。
ご相談ください
ペインクリニック芦屋ピッコロ診療所の頭痛外来では、頭痛日数、生活への支障、これまで使用した治療薬などを確認し、従来の予防薬からCGRP関連薬まで、患者さんの状態に応じた治療をご提案しています。片頭痛でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
参考にした主な研究・資料
- Lipton RB, et al. Treatment effectiveness of galcanezumab versus traditional oral migraine preventive medications at 3 months: Results from the TRIUMPH study. Headache. 2026.
- Joshi S, et al. Effectiveness of galcanezumab versus topiramate, amitriptyline, and other select traditional oral migraine preventives with evidence of efficacy: 3-Month results from the TRIUMPH study. Headache. 2026.
- Takeshima T, et al. Effectiveness of Galcanezumab and Traditional Oral Migraine Preventive Medications: Interim 3-Month Japan Subgroup Findings from the TRIUMPH Study. Advances in Therapy. 2026.
- Reuter U, et al. Erenumab versus topiramate for the prevention of migraine(HER-MESスタディ). 2022.
- Charles AC, et al. Calcitonin gene-related peptide-targeting therapies are a first-line option for the prevention of migraine: An American Headache Society position statement update. Headache. 2024.
- Detke HC, et al. Long-term treatment with galcanezumab in patients with chronic migraine: results from the open-label extension of the REGAIN study. 2022.

