「ヘバーデン結節と言われて湿布や痛み止めを使っているけれど、指先の痛みが続いている」
「指の変形は仕方がないとしても、物をつまんだときの痛みを何とかしたい」
「第一関節に何かが軽く当たるだけでも痛い」
ヘバーデン結節では、このような痛みに悩まされる方がいます。
ヘバーデン結節は、指先に最も近い DIP関節(第一関節)に起こる変形性関節症です。
前回の記事では、手指変形性関節症(手指OA)の痛みは「骨や軟骨の変形」だけでは説明できず、 滑膜炎などの炎症やPower Dopplerで捉えられる血流信号も、その関節の痛みと関連している ことをご紹介しました。
では、痛み止めや湿布、漢方薬、リハビリなどの治療を続けてもDIP関節の痛みが残る場合、ほかに治療方法はないのでしょうか。
近年、ヘバーデン結節が生じるDIP関節OAを含む有痛性の指節間関節OAに対して、 手首の動脈から薬剤を投与する「動注治療」の有効性が報告されています。
この記事のポイント
・動注治療は、曲がった指を元に戻す治療ではありません。
・動注治療は、治療を続けていても続く「痛み」を改善できないか、という治療です。
まだ標準治療として確立されたものではありませんが、DIP関節の変形性関節症を含む臨床研究が報告され始めています。
なぜ手指OAで「炎症や血流」が注目されているのでしょうか?
変形性関節症というと、
軟骨がすり減る
↓
骨が変形する
↓
痛くなる
というイメージを持たれるかもしれません。
しかし現在では、ヘバーデン結節などの手指の変形性関節症の痛みには骨や関節の変形・変化だけでなく、 関節内の炎症も関係していると考えられています。

Nor-Hand研究では、手指OA患者290人の指節間関節と母指CM関節を超音波で評価しました。
その結果、指節間関節では中等度~高度の滑膜炎が認められた関節は、 滑膜炎のない関節などと比べて、触診時に痛みを認めるオッズが 3.17倍(95%CI 2.35~4.28)でした。
さらに、Power Dopplerで確認される血流信号についても、その関節の痛みとの関連が認められています。
炎症に関連する血流・血管へ動脈側から介入すると、 保存的治療で改善しない指節間関節OAの痛みを軽減できるのではないか
という考え方から、臨床研究が行われるようになっています。
2022年―難治性DIPの変形性関節症(ヘバーデン結節)に対する症例報告
ヘバーデン結節の記事として特に注目したいのが、 Kungらが2022年に報告したDIP関節の変形性関節症(ヘバーデン結節)の方のレポートです。
67歳女性。
右手指の痛みが2年間続いており、特に第3指のDIP関節に強い痛みがありました。
複数のDIP関節に腫れやこわばりがあり、 消炎鎮痛薬の保存的治療を行っても症状が続いていました。
レントゲンでは第2~5指のDIP関節に関節裂隙狭小化を認め、 特に第3指では、
- 関節裂隙の消失
- 骨棘形成
- 軟骨下骨硬化
が確認されています。
治療前のVASは8/10でした。

どのような治療を行ったのでしょうか?
この患者に行われたのが、 動注治療です。局所麻酔後、超音波ガイド下に橈骨動脈に専用の薬を注射しました。
さらにレントゲン透視を使用し、投与した薬剤が標的となるDIP関節へ流れることを確認しています。

痛みはどう変化したのでしょうか?
DIP関節の変形性関節症の方のVASスコア(痛みの程度:0が痛みなし、10が最悪の痛み)の推移

腫れとこわばりも部分的に改善し、 6か月時点では鎮痛薬を使用していなかったと報告されています。
DIP関節の変形性関節症(ヘバーデン結節)に対して動脈から治療を行った、非常に興味深い報告です。
2023年―DIP・PIP関節変形性関節症の方 92人への動注治療を調べた研究
その後、より多くの患者を対象とした研究が報告されました。
Kuboらは2023年、 原発性DIP/PIP関節の変形性関節症(それぞれヘバーデン結節/ブシャール結節のことです)の92人を対象に、 動注治療をした治療成績を報告しています。
この研究はヘバーデン結節とブシャール結節の方を対象としています。
対象者は92%が女性、平均年齢55歳でした。
0~10で痛みを評価するNRSが4以上の有痛性のヘバーデン結節、ブシャール結節の方が対象となりました。
手首の動脈を直接穿刺
治療では、手首の 橈骨動脈または尺骨動脈に針を穿刺し、 専用の薬を注射しています。
92人の痛みはどのように変化したのでしょうか?
研究は後ろ向き単群コホート研究で、治療前の平均NRSは7.8でした。
DIP・PIP関節OA 92人の平均NRS

さらに研究で定義された 「12か月後にNRSが2点以上改善」 を達成した割合は、77%(95%CI 68~85%)でした。
2023年―指の関節変形性関節症の方 58人への動注治療を調べた研究
2023年、Liangらは 有痛性の指節間関節の変形性関節症(ヘバーデン結節とブシャール結節)の方58人 を対象とした別の研究を報告しました。
この研究も後ろ向き研究です。
同じく、手首の動脈に直接注射をして、動注治療の薬を投与しました。
治療前の平均NRSは6.0 ± 1.4でした。
指節間関節OA 58人の平均NRS(痛みの強さ 0:痛みなし 10:最悪の痛み)の推移は下記のグラフの通り、いずれも治療前より有意に低下していました。

さらに、手指OAによる機能障害を評価するFIHOAは、
9.8 ± 5.0 → 3か月後 4.1 ± 3.5 へ改善しました。

動注治療を受けた方自身が「治療によって良くなった」と評価した割合(PGICによる臨床的成功率)は、治療1か月後で62.1%、3か月後で77.6%、6か月後で70.7%、12か月後で63.4%、18か月後で50.0%でした。
- 1か月:62.1%
- 3か月:77.6%
- 6か月:70.7%
でした。
58人全員が少なくとも6か月まで追跡されています。
動注治療は「曲がった指を元に戻す治療」ではありません
ここは最も知っていただきたいところです。
動注治療は、ヘバーデン結節によって曲がった指を元通りにする治療ではありません。
すでに形成された骨棘を消す治療でもありません。
これまでの研究で主に評価されているのは、 「痛み」と「手指機能」の改善です。
したがって、
「変形を治す治療」ではなく、
「保存的治療を行っても残る痛みに対して研究されている治療」
です。
「変形しているから仕方がない」と諦める前に
ヘバーデン結節について、
「変形しているから仕方がない」
「年齢だから痛みは我慢するしかない」
と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ヘバーデン結節の「変形」と「痛み」は分けて考える必要があります。
まず本当にDIP関節OAによる痛みなのかを診断し、
- 現在どの程度炎症があるのか
- どのような動作で痛むのか
- 腫れやこわばりがあるのか
- 標準的な保存療法が十分行われているのか
などを評価することが重要です。
そのうえで保存的治療を続けても、
- 物をつまむと痛い
- 何かが指先に当たるだけでも痛い
- 家事や仕事で毎日困っている
という状態が続く場合には、 現在研究されている新しい治療方法について検討する余地があります。
まとめ―ヘバーデン結節の動注治療は「研究が進み始めた治療」
動注治療は、 ヘバーデン結節に対する効果が確立された標準治療ではありません。
一方で、ヘバーデン結節が生じるDIP関節OAや指節間関節OAに対して、 動脈から薬剤を投与する臨床研究が実際に行われています。いずれも治療後の疼痛や手指機能の改善する傾向が報告されています。
ただし、いずれも現在のところ対照群を設定した大規模なランダム化比較試験ではありません。
そのため、
「効果が証明された治療」ではなく、
「疼痛改善の可能性が報告されている、実際に受けることができる治療」
と理解するのが適切です。
ヘバーデン結節では、「指が変形していること」と「痛みが続くこと」は必ずしも同じ問題ではありません。
期待できる可能性だけでなく、まだ分かっていないことも理解したうえで、 現在の痛みの原因やこれまでの治療経過を評価し、治療方法を検討することが大切です。
参考文献
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- Liang KW, Wang B, Huang HH, Tsao TF, Tyan YS, Wang PH. Effectiveness and safety of intra-arterial imipenem/cilastatin sodium infusion for patients with hand osteoarthritis-related interphalangeal joint pain. J Vasc Interv Radiol. 2023;34(9):1485-1492.e1. doi:10.1016/j.jvir.2023.05.035.
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