「肩が上がらない」
「後ろに手が回らない」
「夜中に痛くて目が覚める」
このような症状でお困りの方は、五十肩(凍結肩)の可能性があります。
五十肩は「時間が経てば自然に治る」と言われることもありますが、実際には必ずしもそうとは限りません。長期的にみると、可動域制限や痛みが残る症例も一定数存在することが報告されています。
五十肩で肩が動かなくなる理由
五十肩では、肩関節を包む「関節包」に炎症が生じ、その後
- 線維化(硬くなる)
- 癒着(組織同士がくっつく)
が起こります。

この結果、肩関節の可動域が制限され、「痛みは減ったのに動かない」という状態になります。ある角度以上に動かした際に強い痛みがおこります。
サイレントマニピュレーションとは?
サイレントマニピュレーション(神経ブロック下による肩関節授動術)は、
・神経ブロックで痛みを抑えた状態で
・徒手的に肩関節を動かし、癒着を解除する治療
です。
全身麻酔ではなく、区域麻酔で行える点が特徴で、外来で実施可能な低侵襲治療とされています³。

なぜその場で改善するのか
五十肩の本質は「関節包の拘縮と癒着」です。
そのため、 癒着部位を機械的に解除することで、即時に可動域が改善するという特徴があります。
このような「関節包の可動性の向上」は、関節鏡手術と同様の機序ですが、区域麻酔(起きた状態)で実施でき、日帰りで施術が行えるため、より低侵襲に行える方法として位置付けられています。
可動域の改善(研究データ)
サイレントマニピュレーションの効果は複数の研究で報告されています。
2022年の報告では
- 前方挙上(屈曲): 約98° → 約155°
- 側方挙上(外転): 約75° → 約152°
と可動域改善が認められています。

実際には以下のイラストくらい可動域が拡大します。


さらに2024年の報告では、
- 施術直後から改善がみられる
- 1週間〜1ヶ月でさらに改善
- MRI画像で関節の隙間が確認できる
- 3ヶ月後に大きく回復
- 施術後の生活動画改善
- 施術1年後も可動域の改善が持続
という経過が示されています³。


また、他のレビューでも、サイレントマニピュレーション療法(manipulation under anesthesia)は保存療法と比較して早期の可動域改善に優れることが示されています⁶。
保存療法との違い
五十肩の治療は一般的に
- 保存療法(リハビリ、注射)
- 手術療法
に分かれます。
その中でサイレントマニピュレーションは
”保存療法と手術の中間に位置する治療”
と考えられています。
特に、
- 保存療法で改善しない
- しかし手術は避けたい
という患者さんに適した選択肢です。
適応となる方
以下のような方に適しています。
- 3ヶ月以上改善しない五十肩
- リハビリ・注射で効果が乏しい
- 可動域制限が強い
- 日常生活に支障がある
日常生活に支障がでている肩関節拘縮が持続する場合には積極的な介入的治療を検討することが推奨されます。
サイレントマニピュレーション治療の流れ
① 診察:肩の動きなど身体診察をします。
② 画像検査:レントゲン、超音波検査、場合によりMRI撮影を行い、肩関節の検査を行います。
③ 治療を開始し、難治性の拘縮肩(五十肩)である場合は、サイレントマニピュレーションによる治療を行います。治療当日は腕の麻酔が効いているため、3~6時間、腕の筋力・感覚がなくなります。施術側の腕・手を使う予定は入れないでください。
④ 施術後、数回受診していただき、調整を行います。基本的には施術後2-3日後、1週間後、2週間後、3週間後に受診していただき、ブロック注射などの施術を行います。
⑤ 御自身でのセルフケアが施術後の状態に大きく影響します。
安全性について
サイレントマニピュレーションは比較的安全な治療ですが、
- 迷走神経反射
- 一時的な血圧低下
- 稀に骨折、靭帯損傷などの合併症
が報告されています。
そのため、適切な適応判断と慎重な操作が重要です。
施術後のリハビリの重要性
施術後に最も重要なのは再拘縮を防ぐことです。
可動域が改善しても、適切に動かすトレーニングをしなければ再び肩の関節が固まる可能性があります。
そのため、痛みをコントロールしながら
- 可動域訓練
- ストレッチ
を継続することが不可欠です。
この「施術後のリハビリの徹底」が、最終的な治療成績に大きく影響します。
まとめ
五十肩は自然経過で改善することもありますが、長期的に症状が残るケースも存在します。
サイレントマニピュレーションは、
- 癒着を直接解除できる
- 即時的な可動域改善が期待できる
- 数ヶ月で機能回復が進む
という特徴を持つ治療です。「なかなか治らない拘縮した五十肩(凍結方)」に対する、有力な選択肢の一つです。
Park J, et al. Effect of manipulation technique using ultrasound-guided cervical nerve root block on range of motion at the shoulder joint in frozen shoulder: a retrospective study. J Exp Orthop. 2022
Miyatake K, Wakita R, Fujisawa T, Kawabata Y, Kusaba Y, Naka T, Nakamura R, Tsujiku S, Inaba Y. Satisfaction of patients with frozen shoulder following silent manipulation: a prospective observation study. Sci Rep. 2024
