「ワインを飲むと頭が痛くなる気がする」
「チョコレートやチーズはやめた方がいいですか?」
「人工甘味料は片頭痛に悪いと聞きましたが本当ですか?」
外来でよくいただくご質問です。
食べ物と片頭痛の関係は古くから注目されていますが、最新の研究では“思い込み”と“本当の誘因”を区別することが大切だとわかってきました。
まず大前提として、
すべての人に共通する「絶対に避けるべき食品」はありません。
ただし、特定の食品が誘因となる方がいるのも事実です。
論文で報告されている代表的なものを整理します。
アルコール(特に赤ワイン)
もっとも一貫して報告されている誘因です。
国際的レビューでは、片頭痛患者の約30〜40%がアルコールを誘因と自覚しています。
特に赤ワインが多いといわれます。

考えられる理由
- ヒスタミン
- チラミン
- 血管拡張作用
- 脱水
飲酒後に頭痛が出る傾向がある方は、量や種類を減らすことで症状が軽くなるかを確認してみましょう。
チョコレート

有名な“片頭痛の原因食品”ですが、近年の前向き研究では明確な因果関係は強く支持されていません。
実は「前兆」の可能性
片頭痛の予兆期には
- 甘いものが欲しくなる
- 食欲が変化する
ことが知られています。
つまり、チョコレートが誘因で片頭痛になったわけではなく、片頭痛発作が始まりかけていてチョコレートを食べたくなった可能性があります。
チーズ・熟成食品

チラミン含有食品として知られています。
理論上は血管反応を引き起こす可能性がありますが、大規模研究では関連は限定的です。
個人差が大きい食品と言えます。
加工肉(ハム・ソーセージ)

亜硝酸塩(nitrites)は体内で一酸化窒素(NO)を増やします。
NOは実験的に片頭痛を誘発することが示されています。
ただし、日常量で必ず発作が起きるわけではありません。
カフェイン
カフェインは血管収縮作用があるので、片頭痛の初期に摂取すると頭痛が軽減する可能性はあります。しかし、カフェイン摂取200mg以上が毎日続くと、急な中止で離脱性頭痛が起こることがあります。
参考) レギュラーコーヒー(マグカップ1杯)→ 100mg前後、エスプレッソ1ショット→ 60~75mg、緑茶1杯→ 30~50mg
片頭痛のコントロールではなく、嗜好品として1日1杯までと決めるのがおすすめです。
人工甘味料(アスパルテームなど)

人工甘味料、特にアスパルテームについては、片頭痛頻度の増加が報告されています。
考えられる機序
- 神経伝達物質への影響
- 興奮性アミノ酸の増加
- 脳の過敏性の変化
ただし、研究結果は一貫しておらず、
片頭痛の方全員に影響するわけではありません。
「人工甘味料での飲料を飲むと毎回頭痛が起きる」という明確な関連がある場合は、控えるほうがよいでしょう。
うま味調味料(MSG:グルタミン酸ナトリウム)
1968年、中華料理を食べた後に頭痛や顔面紅潮、しびれ、動悸などを訴えた症例が権威ある医学誌Lancetに報告され、「Chinese restaurant syndrome(中華料理店症候群)」と呼ばれました。原因は料理に多く含まれるグルタミン酸ナトリウム(MSG)ではないかと疑われ、動物実験で神経への影響が指摘されたことから、世界保健機関などにより摂取量の目安も設けられました。しかしその後、米国で行われた臨床試験では、過去に症状を経験した人にMSGを含む食事を与えても症状は再現されず、通常の食事量での有害性は確認されませんでした。2000年には因果関係は否定的と整理されています。
グルタミン酸は脳内の興奮性神経伝達物質です。
片頭痛は「脳の過敏性」が背景にあるため、一部の感受性の高い人では影響する可能性が考えられています。
しかし現在のところ、一般的な摂取量で広く片頭痛を引き起こすという強い証拠はありません。
なお近年では、中華料理店での火鍋による一酸化炭素中毒が問題となり、これを“新しい中華料理店症候群”と呼ばれるそうです。
食事制限は必要?
これまでの内容は、以下のようにまとめられます¹⁾²⁾。
✅ 食品単独が強力な誘因となる人は少数
✅ 睡眠不足・ストレス・月経などとの“組み合わせ”が重要
✅ 厳格な除去食は推奨されない
実践的アドバイス
① 頭痛ダイアリーをつける
② 毎回同じ食品で起きる場合のみ制限
③ 極端な自己制限はしない
片頭痛は“脳の過敏性”が背景にある疾患です。
食べ物だけを悪者にしてしまうと生活の質が下がります。
「なにを食べたらいけないか」ではなく
「発作を減らす戦略づくり」へ。
を考えることが大切です。
片頭痛の誘発因子(トリガー)は人それぞれ異なります。
特定の食べ物や飲み物だけでなく、強い光や音、におい、天候の変化、睡眠不足、ストレス、月経周期など、さまざまな要素が影響する可能性があります。
大切なのは、「これが絶対に悪い」と決めつけることではなく、自分にとって何が重なったときに発作が起きやすいのかを知ることです。
そのために役立つのが、食事内容や生活状況を記録する頭痛ダイアリーです。
記録を続けることで、自分なりのパターンが見えてきます。
無理な制限をするのではなく、
できる範囲でトリガーを調整していくことが、発作の頻度や強さを和らげる第一歩になります。
参考文献
- International Headache Society. Dietary triggers of migraine: systematic review. Cephalalgia. 2018.
- Gazerani P. Migraine and diet. Nutrients. 2020;12:1658.
- Kelman L. The premonitory symptoms of migraine. Cephalalgia. 2004;24:200-208.
- Olesen J, et al. Nitric oxide as a trigger of migraine. Lancet. 1993;341:1308-1310.

